Japanese Music Reviews

歴史の中で消費され、捨てられていく日本の音楽を紹介し、文化として再構築することの一助になれば

【氷室京介】08 MELLOW(2000)

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08 MELLOW(2000)

今回は、氷室京介8枚目のオリジナルアルバム、MELLOWをご紹介します。
MELLOW(メロウ)とは、その名のとおりメロディアスかつゆったりしたというイメージの言葉ですが、このアルバムのコンセプトのようなものになっています。ただ、タイトルがメロウでジャケットが真っ白だと、いかにもバラード集のように見えてしまいますが、それはミスリードでは、という気がします。というのも、テンポこそ遅いものの、半数の曲はしっかりした(という言い方も変ですが)ロックな曲ですから。この時期、「ダイヤモンド・ダスト」に「永遠」と、立て続けにバラードのシングルを出していたこともあり、必要以上にバラードの印象を与えたことは、本作にとって実は不幸なことだったのでは、と思ってしまいますね。

さて中身ですが、一曲目はシングル「SLEEPLESS NIGHT」から始まります。この曲からしてバラードではないのですが、これは前々作の「MISSING PIECE」に収録の「STAY」や「SQUALL」などと同じ路線の、歌謡ロックというべきものですね。コブシの効いたメロディや曲構成が歌謡曲的(つまりJ-POP)だと感じます。ただ「STAY」や「SQUALL」よりも進化していて、氷室京介の歌謡ロック路線のひとつの完成形だと思います。

また、歌謡ロックについては以前にも書きましたが、それが良いとか悪いとかではまったくなく、この曲、僕は好きな曲ですし良い曲だと思います。ですが、日本特有のロックであるということは認識しておいた方が良いと思います。

そしてこの曲、アルバム全体から見て明らかに浮いている曲なんですが、そういうシングル曲を一曲目に持ってくるのは、4枚目のアルバム「Memories of Blue」と同じ構成ですね。キャッチーなシングルでリスナーを安心させて、二曲目から本当のアルバムがスタートするという感じ。この始まり方も悪くはないのですが、ただ、本作は「永遠」から始まるのもよかったのでは、という気もしますけども。

前作I・DE・Aのご紹介では音が古くさいとさんざん文句を言ってしまいましたが、このアルバムはそんなことはないですね。むしろ、うまく同時代の洋楽のサウンド(特にUKギターロック)を習得できているように思います。「Silent Blue」はいかにもU2的なサウンドに仕上げた上で、氷室京介の歌の個性もしっかり表現できていますね。

曲も粒揃いだと思います。バラードが多いのはそういうコンセプトだから仕方ないとしても、ひとくちにバラードと言っても、本作のそれは、曲ごとにキャラが立っており、聴いていて飽きさせません。ピアノバラードだったりロックバラードだったり、若干アップテンポだったりで、工夫されているからでしょう。

しかし、実はそういうバラード曲よりも、ラスト2曲のロックナンバーの方が魅力的に感じますね。「JIVE!」は氷室京介のロックナンバーの中でもかなりグルーヴィな曲で、意外と今までなかったパターンの曲です。最後の「bringing da noise」は氷室京介初ラップの曲でもありますが、この曲はなんと言ってもギターの音色がエッジが効いていてよいですね。金属質で、しかし粘っこいリフを弾いていて、「JIVE!」と同じくグルーヴィな曲です。この2曲で終わるから、アルバム全体もまったりした感じがなく、何度も聴きたくなるようになっています。結局、バラードは多いけれども、良いロックアルバムということですね。