Japanese Music Reviews

歴史の中で消費され、捨てられていく日本の音楽を紹介し、文化として再構築することの一助になれば

【布袋寅泰】02 GUITARHYTHM Ⅱ (1991)

f:id:jm_reviews:20201017210100j:plain

02 GUITARHYTHM Ⅱ (1991)

今回は、布袋寅泰のセカンドアルバム、「GUITARHYTHM Ⅱ」をご紹介しましょう。
このアルバムは2枚組24曲の大作ですね。ソロ2作目にして2枚組というのは制作意欲が旺盛だったのでしょうか。ただ、2作目といっても、前作の「GUITARHYTHM」の後に吉川晃司と「Complex」を結成し、アルバムを2枚発表して解散した後なので、前作とは経験値という意味では全くレベルが違うのかもしれません。

まず、本作はサウンドの完成度が前作と段違いですね。洋楽的なサウンドになっていて、歌がなかったら邦楽とは思わないんじゃないかな。特にギターの鳴りが全く違っていて、前作はハードロック然とした音色でしたが、本作では曲ごとに様々な色を出しつつ、前作と比べてよりファンキーかつふくよかな音色になっていて素晴らしいですね。

また、もう一つのポイントですが、本作は単にギターだけにこだわるのではなく、音楽家布袋寅泰としてのデビュー一作目のようなニュアンスがあります。24曲それぞれの音楽性が幅広く(ゴスペルに始まり、ハードロック、ファンク、AOR、インダストリアル、パンク、プログレ等々)、必ずしもギターが主役ではない曲も複数あります。前作は、歌ものでありつつ、いかにギターを主役として聴かせるかを考えて作ったアルバムという感じがあり、その路線も決して悪くなかったのですが、どちらかというと本作はギターよりも歌が主役ですね。

それは歌詞が日本語になっていることも関係ありますが、「YOU」など、どの曲も歌を聴かせる曲、アレンジになっているので、前作と比べてすごくわかりやすい作品になっています。長いですけどね。

ただ、それだけボーカルが重要な曲が増えたということは、ボーカルの力量が問われる曲も増えたということです。そして、布袋寅泰にとって日本語で19曲(インストも5曲あります)を歌うのというのは大きなチャレンジだったに違いありません。結果、決して下手とは感じないのですが、音程を必死で追っている感じがして、ボーカルが無機質な歌い方になっている気がします。ですが、それが良いという方もいるようで、それもよくわかります。

個々の楽曲についても見ていきましょう。まず、「PRISONER」や「SPHINX」、「NOT FOR SALE」のギターは素晴らしいですね。この人のギターの特徴って何だろう、と思ったとき、特にカッティングに魅力があるなと思うのですが、リズムがすごく正確なギターを弾く人ですね。音色にはそこまで個性を感じないのですが、リズムがすごく正確なので、聞いていて気持ちがいいんですね。そのリズムが正確な点が、サウンドの洋楽っぽさの理由のひとつなのかもしれません。

歌が印象的な曲としては、やはり「YOU」や「RADIO! RADIO! RADIO!」でしょうか。前者は、布袋の歌の魅力が一番よく出ている曲ですね。優しい歌い方が素敵です。後者は、イギリスのニューウェーブのバンドみたいな曲で、日本人離れした素晴らしい曲です。80年代のイギリスのバンドのカバー、と言われても信じてしまうかもしれません。

逆に「SLOW MOTION」や「FLY INTO YOUR DREAM」は、曲がいいのですが、ボーカルの力量が追い付いていないように感じますね。また「DEVIL’S SUGAR」はいかにも80‘s的なギターとドラムが鼻につきますし、「DRIVIN TO YOUR HEART TONIGHT」はヴァン・ヘイレンみたいなギターのハードロックで、全体から少し浮いていますね。「MERRY-GO-ROUND」はいかにも邦楽的なバンドサウンドなのが、ほかの曲と比べて余計ダサさを感じてしまいます。
ただ、2枚組の作品で全曲素晴らしいという作品はほとんどないと思いますので、それらの曲があるからと言って、本作の評価が直ちに下がるわけではないと思います。

総括すれば、本作は音楽家布袋寅泰が、持てる才能すべてを発揮し始めた作品であり、傑作であると言えると思います。後年の「スリル」や「バンビーナ」のイメージが強すぎて、この作品の素晴らしさがうまく伝わっていないのではないでしょうか。布袋の代表作というべき作品ですね。