Japanese Music Reviews

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【布袋寅泰】06 SUPERSONIC GENERATION(1998)

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06 SUPERSONIC GENERATION(1998)

今回は、布袋寅泰、6枚目のオリジナルアルバム、「SUPERSONIC GENERATION」をご紹介しましょう。

この作品、これまでの布袋の作品中、最も攻撃的な作品ですね。サウンドはハウスやドラムンベースなどエレクトロサウンドで統一されており、ギターもこれまでとは違い、電子音の一部として扱われています。

また、共作が多いのも本作の特徴ですね。全10曲中、4曲が海外の作家との共作となっています。ただ、共作曲とそれ以外の曲で、そこまで色合いの違いは感じません。エレクトロサウンドの大幅な導入のために、ヘルプとして共作を増やしたわけではないようです。サウンドの完成度は高いと思います。

しかし、前作「King & Queen」があれだけポップで分かりやすい作品として大ヒットした後にこういう作品が届くとは、当時、誰も思わなかったでしょうね。言ってしまえば保守的なロックサウンドを展開していたのに、今回で突然尖った音を出してきたのですから、ファンの期待というか思いを裏切ったと言われても仕方ないでしょう。逆に「ギタリズム3」の後に本作が出ていたら、よりサウンドを進化させた、と評価されていたかもしれません。サウンド的に一番似ているのが「ギタリズム3」なので。

これはアルバムの完成度とは関係のないところではありますが、「King & Queen」の後にリリースする作品としては、本作のような尖った作品ではなく、むしろ「ギタリズム2」のような重厚な大作をこそ出していれば、シーンの尊敬も勝ち得ていたような気がします。ここでこういうアルバムを出したが故に、その後、よくわからない人というイメージがついたような気もするからです。

さて、そんな話はここまでにして、次はもっとアルバムの内容について見ていきましょう。
まず、全体的にこの作品、前年にリリースされたU2の「POP」という作品からの影響が大きいように思います。この作品は、ダンスミュージックのビートにロックを乗せるという、U2の中でも実験作と呼べる作品でしたが、このアルバムも同じアイディアの作品ではないかと。ただサウンドU2よりよっぽどヘヴィですが。

なお、U2は外部プロデューサーを招へいして作成していますが、布袋は自らが一人で作曲にプロデューサーも兼ねており、(もちろん単純に比較できることではありませんが)やはり音楽的才能はすごいものがあると言わざるを得ないですね。

個々の楽曲についてみれば、カバーになってはしまいますが、なによりもまず、レッド・ツェッペリンの「immigrant song」これがすさまじいですね。日本の音楽家のなかでこれだけメジャーな人の作品で、ここまでエッジの聞いた音が聞けるとは思いませんでした。

原曲の魅力は何といってもリフのかっこよさですよね。最初の一音からいきなり沸点までもっていく、圧倒的かつ暴力的なリフですが、そのリフの持つエネルギーを全く損なうことなく、現代版にアップデートすることに成功しています。また、イントロのボーカル部分(アアアー)もギターで表現されていてモダンな印象を与えており、ボーカルもエフェクトかけまくった声でぶつぶつ歌うのがこれまたかっこよい。カバー曲ではありますが、これまでの布袋の楽曲の中でも圧倒的に素晴らしいです。

「immigrant song」はこれまであらゆるバンドにカバーされていて、有名どころでは、10年近く前になりますがナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーがカバーしたものもありました。ですが、この曲はその中でもかなり出色の出来でしょう。トレントのバージョンよりも確実に勢いやオリジナリティがありますしね。

と、カバー曲ばかり褒めていますが、それ以外の曲だと「BELIEVE ME,I’M LIAR」や「MYSTERY OF LOVE」がよいですね。と言っても前者はボーカルレスの曲で、布袋の楽曲という感じは全くしませんが。ただし、この曲のギターは世界基準でかっこいいと思いますね。後者は、バラード曲ですが、サビのいかにもU2なギターがよいです。

結論ですが、本作、その暴力的に尖ったサウンドから、誰にでも勧められるような作品ではないですが、そのサウンドは世界基準で通用するほど完成度の高いものだと思いますね。布袋は「スリル」の印象しかないという人ほど、一度でいいから聞いてみてほしい、そんなアルバムですね。