Japanese Music Reviews

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【布袋寅泰】08 SCORPIO RISING(2002)

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08 SCORPIO RISING

はい、今回は布袋寅泰の8枚目のオリジナルアルバム、「SCORPIO RISING」(スコルピオ・ライジング)をご紹介しましょう。
このアルバムのコンセプトは、ずばりロックですね。全曲がアッパーなロックチューンで揃えられており、攻めの姿勢を感じます。前作の「fetish」がニューウェーブ的なサウンドを作り込んだ作品で、ストレートなロックソングはなかったので、その反動なのか本作は徹頭徹尾ロックな曲で埋め尽くされています。では、果たしてそれは成功しているのでしょうか?

一口にロックと言っても、50年代にロックンロールミュージックか生まれてからロックも細かくサブジャンルが生まれているので、このアルバムもさまざまな種類のロックナンバーが集められています。
特に注目すべきなのは、「SHOCK TREATMENT」や「BABYLON」といった曲でメタルにチャレンジしていることです。特に「SHOCK TREATMENT」なんて完全にスラッシュメタルですね。メタルの要素を加えたとかのレベルではなく、完全にメタルになっているのがすごい。海外を見回しても、20年近くのキャリアにして初めて、しかもここまでコテコテのメタルをやる人はそうそういないのではないでしょうか。

また、コテコテの70年代ハードロックにも挑戦しています。「VENUS」は完全にレインボーを意識したハードロックですね。ソロがあからさまにリッチー・ブラックモアへのオマージュ(パロディ?)になっています。

かと思えば、「DOUBLE TROUBLE」のような50年代〜60年代マナーのロックンロールもあります。「Mr.LONLEY」はビートルズの「Taxman」的なリフのロックンロールですね。

一曲目の「SCORPIO RISING」だけは、BOØWY的なメロディが懐かしい、布袋のロックという印象の曲ですが、さまざまなサブジャンルのロックが収録されていますね。

では、それら様々なロックのサブジャンルを詰め込んだ本作は良いのか、と言うところですが、これがうーんとうなってしまうところがあります。

その理由はギターですね。まずフレージングなのですが、古典的なハードロック、ヘヴィメタル的なフレーズが満載なので、洋楽を聴く人だと、どこかで聞いたことのあるようなフレーズばかりだと思うのではないでしょうか。フレーズが耳に残らないのですよね。

理由の2つ目は、ギターの音色ですね。どの曲もこれでもかとギターが前に出てくるのですが、今回の布袋のギター、妙にデジデジ(デジタルな音)した、冷たく乾いた音になっていて、味わいやぬくもりが感じられないのです。そういう音色が一概にだめというわけではなく、曲の音楽性によるんだと思いますが、(メタルの曲ならうまくハマっていて違和感はないのですが)、だいたいどの曲も上手く合ってないように思います。楽しい曲なのに、ギターの音色が無機質なので、違和感があったりするのですね。

また、演奏についても、全体的にいつもの布袋に比べてリズムが甘いように思います。勢いにまかせているというか。ヤンキー的な気合だけに溢れる歌詞と併せて、全体的に若干空回りしているようにも感じますね。

総じて、実は布袋って、こういうコテコテなロックはあまり似合っていないし、無理してキャラを作っているようにも感じられます。前作「fetish」が個人的な趣味を追求したような作品で、あまり受けが良くなかったから、こういう路線に行ったのでしょうか。ただ音楽的には前作の路線を追求した方が、布袋にはふさわしかったと思いますね。