Japanese Music Reviews

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【布袋寅泰】14,15 New Beginnings/Strangers(2014/2015)

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14,15 New Beginnings/Strangers

はい、今回は布袋寅泰の14枚目のオリジナルアルバム、「New Beginnings」と、15枚目のオリジナルアルバム、「Strangers」をご紹介しましょう。
今回、何故2枚同時にご紹介するのかというと、この2枚、それぞれ全12曲収録ですが、そのうち8曲が同じ曲(アレンジやボーカルが変わっている曲もあります)なんですね。何故こういうことになったかというと、もともと布袋はこの時期に海外への本格進出を目指しロンドンでアルバム制作を行っており、いわば世界デビュー作が「Strangers」になるのですが、「New Beginnings」は、海外デビューする前に、日本で新作として発表したもので、つまりターゲットの違いによって、アルバムの収録曲やアレンジを変えていますが、原形は一つのアルバムという感じです。
(何故そんなややこしいことをするのかよくわかりませんが)そういうことで、実質一つのアルバムから生まれた双子のようなアルバムだと思うので、今回、同時にご紹介したいと思ったところです。

では、今回のアルバムの特徴ですが、まず何といっても布袋がギターに徹していて、一曲も歌っていないところですね。なので基本的にインスト曲が多めです。ただ、半数程度はゲストボーカル(日本人ではない)の曲になっていますね。と、ここで問題が起こるのですが、布袋寅泰が優れたギタリストであることは論を待たないと思うのですが、その個性とは、少なくとも音色にはないと思うのですね。これまでのアルバムでも、曲に応じてギターの音色が全く変わるので、一聴してこれは布袋のギターだ、とはわからない。だから、こういうインストを集めたアルバムだと、曲ごとに音色も変わるので、同じ作者の曲だという感じがしなくなってしまいます。そこにゲストボーカルの曲も入ってくるので、何かアルバムというよりもプレイリストを聴いているような気分になります。

そう考えると、ギタリストとしての布袋とは、ロックバンドのギタリストなのかもしれませんね。同じボーカルが歌ってくれないと、曲と曲のつながりが分からなくなる。それだけどんな音楽性にも対応できる幅広さがあるということでもあるし、それもすごい才能だと思いますけども。ギタリストに留まらない音楽家ということでしょうか。

曲はどれもいいんですよ。インスト曲では「Medusa」なんてすごくエッジの効いた曲で素晴らしいですね。ただ、インスト曲自体はこれまでのほとんどのアルバムにも入ってましたが、それらとは全く違う音楽性ですし、これって布袋なの・・?という気分にはなります。それで海外進出することに疑問は感じてしまいますね。

アルバムは2枚ありますが、これは「New Beginnings」の方を聴けば、正直十分だと思います。こちらの方が曲順もよいですし。「Strangers」は、「Battle Without Honor or Humanity」を入れているところからも、有名な曲を無理やり入れて注意をひこうするような、何となくの自信のなさを感じてしまうんですよね。

ただ、本作には大きなボーナスがあります。それはイギー・ポップがゲストボーカルとして2曲も参加していることです。この2曲が群を抜いて素晴らしいです。特に「Walking Through the Night」は震えるかっこよさですね。イントロのギターから、もはやイギーの曲にしか聞こえなくて、良い意味でこの曲だけ完全に浮いてますね。イギーは「Strangers」のリリースの翌年に「Post Pop Depression」というアルバムを発表して、自身最大のヒット作をものにしていますが、そのアルバムとこの「Walking Through the Night」には似た雰囲気があるのも興味深いところです。布袋の曲という感じは全くありませんが、この曲は是非とも聞いてもらいたいですね。