Japanese Music Reviews

歴史の中で消費され、捨てられていく日本の音楽を紹介し、文化として再構築することの一助になれば

【ユニコーン】03 服部(1989)

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03 服部(1989)

はい、今回はユニコーンの3枚目のオリジナルアルバム、服部をご紹介しましょう。
このアルバム、まずなんと言ってもアルバムジャケットのインパクトで有名ですよね。前作まで髪を逆立てたメンバーが写ってたのに、いきなりおじいさんの顔のアップですからね。こんな風に、途中からユーモアを前面に出した作風に変化するバンドというのも非常に珍しいと思います。他にこんなバンドいないですよね。ちなみにジャケットのおじいさんが服部さんなんだろうと思う方も多いと思いますが、そうではないようです。

さて、本作はもちろんジャケットのインパクトだけじゃなくて、ユニコーンの傑作アルバムとして有名ですが、いったいどんなアルバムなんでしょうか。ジャケットの変わりようから音楽的にもガラリと変わったかのように見えますが、基本はこれまでと同じ、ハードロックというルーツは変わりません。しかし楽曲の多様性が前作とは段違いですね。これはもはや多様性どころの騒ぎじゃなくて、闇鍋状態とでもいうか、遊びすぎ、やりたい放題すぎるアルバムですね。しかし、曲がただ並んでいるような印象はそこまでなくて、アルバムとしての統一感があるのが傑作と呼ばれる所以でしょうか。

さて、アルバムの中身を見ていきましょう。一曲目から、何とオーケストラによるユニコーンの過去曲と本作の収録曲の演奏で始まります。タイトルが「ハッタリ」ですからね。はっとりとハッタリにもかけているのかもしれませんが、このオーケストラ演奏にハッタリと名付けるセンスに笑えれば、このアルバムは好きになるのでは。
とにかく、ほとんど全曲、歌詞がナンセンスで下らないんですよね、本作。

大まかな傾向は、歌詞がふざけていればいるほど、逆にサウンドはオーソドックスなロックだったりします。「服部」なんて実にストレートなハードロックの曲なのですが、歌詞は服部というおじさんが若者に延々モテ自慢する歌詞です。

反対に歌詞が真面目だと、サウンドがわけのわからないことになっています。例えばM10の「デーゲーム」は、野球をテーマにした叙情的な歌詞ですが、何故かシタール(インドの伝統的な弦楽器)が流れてきます。歌詞と全く調和していないと思うのですが。

あと、見逃せないところとして、本作はなんと言っても「大迷惑が入っているアルバムでもあります。ユニコーンの代表曲のひとつですね。実はこの曲がユニコーンのファーストシングルだったりします。サードアルバムでやっとファーストシングルを出すバンドというのも前代未聞ですね。そして、この曲、歌詞がマイホームを買ったばかりで転勤を命じられるサラリーマンの歌詞として有名ですが、サウンドもかなり変わっています。ユニコーン史上最もハイテンポな曲で、メタルかパンクかと思うのですが、実際はギターはイントロと間奏以外ではほとんと存在感がありません。歌メロではほぼドラムとオーケストラしか聴こえません。ある意味、小林武史のオーバープロデュースでMr.Childrenがパンクをやったらこうなるかも、というくらいバンド感がありません。メロディはこれまでで一番キャッチーな曲なのは間違いありませんが、この曲がファーストシングルでいいのか、と。その辺面白いと思ったからこうしたんだろうとは思いますけども。

本作、ハチャメチャでドタバタ、ナンセンスな世界ですが、要所要所でシリアスな曲を挟み込んでいるのもあって、途中で飽きることもなく通して聞けるのはすごいですね。
その上であえて言えば、本作、名盤に間違いないとは思いますが、逆に名盤とか傑作とかいう大げさな言葉とは一番縁遠いところにあるアルバムでもあると思います。内容は前2作を遥かに超えるクオリティなのは誰が聞いても明らかですが、そういう大げさな言葉に構えないで、もっと気楽に、コメディ映画でも見るくらいの気持ちで楽しんだ方がいい作品のような気がしますね。わけが分からないとは思いますが、不思議とクセになる、本当に変なアルバムです。もちろん良い意味ですが。

【ユニコーン】02  PANIC ATTACK(1988)

 

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02 PANIC ATTACK

はい、今回はユニコーンの2枚目のオリジナルアルバム、PANIC ATTACKをご紹介しましょう。

前作BOOMが新人離れした完成度の高いアルバムでしたが、ハードロックな曲とポップな曲がそれぞれ中途半端になっているきらいはありました。本人たちもそう思ったかは分かりませんが、今作では、前作にあったポップな部分によりフォーカスを当てた作品ですね。「I'm A LOSER」 のような前作と同じハードロックの曲もありますが、そもそも歪んだギターサウンド自体が前作より格段に少なくなっており、ポップソングが格段に増えています。

また、歌詞におふざけ要素が加わっていて、全体的に明るくなっているのも特徴です。奥田民生のボーカルもその意味で活き活きしているように聴こえます。前作も決して悪くはなかったのですが、こうやって聴き比べてみると、ちょっと余裕はなかったのかな、という気もします。

前作の「Maybe Blue」のような決定的な曲には欠けますが、アルバムの全体を通して、しょうもないことに悩む若い男の滑稽さをクスクス笑うような、そんな空気に包まれていて、それが理由でこのアルバムのファンだという人も多い気がします。

音楽的には、ハードロック以外の曲はまだまだ発展途上の印象ですし、その点は次作の「服部」で飛躍的にレベルアップしていくものだと思います。完成度で言えば前作の方が上だと思いますし、過渡期の作品という見方もできると思います。しかし、このアルバムにしかない魅力もあるので、聞き逃すべきではないですね。

【ユニコーン】01 BOOM(1987)

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はい、今回からユニコーンのオリジナルアルバムをご紹介していきましょう。まずは、1987年発表のファーストアルバム、BOOMです。

このアルバムは、一言で言えば、シリアスなユニコーン、でしょうか。ユニコーンといえば、徹底的にふざけること、シリアスにならないことを目標にしているかのようなアティテュードが印象的なバントですが、このアルバムは、そんなユニコーンの中でも、おそらく唯一のおふざけなしのアルバムかと思います。なので、いつものユニコーンをイメージして聴くと肩透かしかもしれませんね。

ただ、音楽的には後年と大きく違うわけではなく、ユニコーンサウンドの基本になるハードロックバンドとしてのサウンドは、このアルバムでかなり完成されています。ハードロックをルーツに持ちつつ、ポップさを足すためかシンセのサウンドが前面に出されているのが、サウンド面の特徴でしょうか。しかし、そのミックス加減が少し中途半端にも感じます。ありがちなサウンドと言えばそうなので、さほど個性的とは言えないと思うのですが、もっとポップに振り切るか、ハードにこだわるかすれば、サウンド的にも面白くなった気もしますね。しかしそれを補う曲の力、それにボーカルの力がこのアルバムにはあります。

曲の方から言えば、メロディが日本的な哀愁のあるメロディであること、ギターやベースの印象的なリフが多いことがあります。とくにメロディは80年代特有の哀愁のある感じがなつかしさを感じさせますが、ただ若い人が聴けば新鮮に感じられるかもしれませんね。

ボーカルの方ですが、ユニコーンは後年メンバー全員が歌うバンドになりますが、このアルバムでは全て奥田民生がボーカルです。ただ、民生のボーカルが、今と別人かと思うほど全く違います。これは声が変わっただけではなく、歌唱方法から変えたのではないかと思うのですが、どちらにしても歌唱力はこの時点でかなり高いレベルに達しています。ボーカルの歌唱力によって、曲の持つ力以上のものが出ているようにも思えますね。

個々の楽曲では、「Maybe Blue」 や「Pink Prisoner」が印象的でしょうか。とくに「Pink Prisoner」は、これ以降のユニコーンにもつながるサウンドが展開されており、対照的に「Maybe Blue」は、ザ・エイティーズのロックという感じで、今聴くとすごく新鮮ですね。

このアルバムは、ユニコーンと言われなければ分からないくらい、今のイメージとはかけ離れていますが、アルバムの完成度はかなり高いです。収録曲も全10曲とコンパクトなところも良いですし、演奏力も楽曲の構成力も新人離れしたものです。ファーストアルバムなのにそういった初々しさはまるでないですね。

今の耳で聴くと、ドラムのサウンドなど時代を感じるところもなくはないですが、それでもいまだ広くリスナーに訴える力をもった、誰にでも勧められるアルバムだと思います。すごいファーストアルバムですね、これは。

【ユニコーン】00 はじめに

はい、前回で布袋寅泰の全オリジナルアルバムレビューが終了したので、今日から次に取り組みたいと思います。次はこの人たちです!

 

 

 

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ユニコーン

 

年代的に、音楽を聴き始めた時にはすでに解散しており、奥田民生は多少聞いていても、以外とユニコーンだとシングルを少しぐらいしか知らないんですよね。そういう人、実際多いのではないでしょうか。ただ、ユニコーンは80年代の日本のロックの代表的なバンドの一つですし、一枚一枚じっくり聞きこんで、レビューしていきたいと思います。明日から乞うご期待。

【布袋寅泰】全オリジナルアルバムランキング

はい、今回は、これまでご紹介してきた布袋寅泰の全オリジナルアルバム17枚を悪い順から良い順に順位をつけていきましょう。ただし、New Beginnings/Strangersはほぼ同じアルバムなので1枚としてカウントし、順位としては1位から16位までになります。
では16位からカウントダウン方式でいきます。

 

 

16.Paradox
最下位は、2017年の「Paradox」になりました。まず曲以前のサウンドに問題あり。曲自体も元気がないですし、布袋のモチベーションが感じられず、この順位になりました。

 

15.SCORPIO RISING
このアルバムは、布袋のヤンキー的な要素を無理やり出しすぎて、逆にから回ってしまいましたね。サウンドがデジデジ(デジタル×2)した、無機質な手触りなのも減点に。聞いていて疲れてしまう作品。また多くのファンは布袋にメタルまで求めてないですよね。

14.GUITARHYTHM Ⅳ
ギタリズムシリーズでは、このⅣが最下位ですね。曲の出来はいいのかもしれないけれど、布袋がやる必然性が感じられない曲が多い。布袋の魅力をあえて薄めたような作品。

 

13.GUITARHYTHM Ⅵ
現時点での最新作ですね。前作(Paradox)と同じく、いつもの布袋の熱量が足りないのが気にかかります。曲に統一感がないのも、ギタリズムシリーズとしては厳しい。

 

12.GUITARHYTHM Ⅴ
ギタリズムシリーズが続きます。このⅤは、布袋がこれまでになく遊びまくった作品ですね。あえて生バンドのグルーヴ感を封印し、布袋一人がやりたい放題やっちゃった感があります。ただギターが聞こえてこないことと、曲自体もフックが弱いのが残念。ある意味、布袋作品の中で、最も聞く人を選ぶ作品かもしれませんね。

 

11.MONSTER DRIVE
とにかく楽しませることを目指したパーティーアルバム。「IDENTITY」のような昔ながらの名曲もあります。ただ、ちょっと飽きるのが早いのが気にかかりました。

10.Fetish
布袋の音楽的ルーツにアプローチするコンセプトで、聴けば聴くほど良さが出てくる作品。人によってはもっと上位に来てもおかしくないと思いますが、ただ、シングル曲が若干弱いのと、派手さに欠けるのが若干惜しい。ちょっと暗いというか。

 

9.DOBERMAN
バランスの取れた作品。しかし、小さくまとまったという印象もあります。

 

8.New Beginnings/Strangers
布袋の作品という印象はほぼありませんが、しかし曲のクオリティが指折りなのは間違いないので、これより順位を下げられませんでした。世界に打って出るのが少し遅かったですね。あと10年ほど早ければ、まだ状況は違ったかもしれないとも思います。

 

7.SUPERSONIC GENERATION
布袋史上最も攻撃的な作品。「King & Queen」の後にこれを出す必要があったのかは疑問ですが、本作で布袋の才能が単なるJ-POPの枠には収まらないことを示しました。

 

6.GUITARHYTHM Ⅲ
本作が、真の意味で布袋のテクノサウンドの始まりかもしれません。突出した曲はないものの、アルバム全体から引き込まれるような力を感じる、布袋の存在感あふれる作品。

 

5.AMBIVALENT
バンドサウンドとしては、本作と「COME RAIN COME SHINE」が布袋の最高峰でしょう。楽曲的にもサウンド的にも完全に異色作ですが、中毒性が高いですね。

 

4.King & Queen
これ以上のアルバムは、どのアルバムが一位でもおかしくないですね。本作は、布袋のオリジナルアルバムで最大のヒット作であり、抜群にキャッチ―で、しかし意外と骨太なロックナンバーも入っている、全方位に向けられた超優秀なアルバムです。アルバムジャケットだけどうにかなれば、もうちょっと名盤の風格というものがあったのにと、音楽面以外のことがむしろ気にかかりました。

 

3.GUITARHYTHM
布袋のギターサウンドだけを聴くならば、おそらく本作がベストでしょう。ギターを聴かせることを第一に作られたアルバムであり、チープなエレポップのサウンドが逆にいとおしさを醸し出します。

 

2.COME RAIN COME SHINE
キャリア後半にして代表作の一つだと思います。「嵐が丘」をはじめとする曲のクオリティ、バンドのアンサンブル、ギターの鳴り、ともにベストでしょう。

 

1.GUITARHYTHM Ⅱ
そして、布袋寅泰のオリジナルアルバムでナンバー1は、本作になりました。
作品の完成度で言えば、むしろ「COME RAIN COME SHINE」の方が上です。ただ、布袋のあふれる才能が最も純粋に発揮されたのは、まちがいなくこのアルバムでしょう。朴訥とした歌い方も、今の耳で聞けば逆にかわいらしく感じられるのも魅力です。自分の才能を信じて、壮大な世界を作り上げた、一大コンセプトアルバムであり、日本の音楽史に残るべき作品ですね。

 

 

はい、これで布袋寅泰のアルバムレビューは終了となります。
次回からは誰をご紹介するのか、お楽しみに。

【布袋寅泰】17 GUITARHYTHM Ⅵ(2019)

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17 GUITARHYTHM Ⅵ(2019)

 はい、今回は布袋寅泰の17枚目のオリジナルアルバム、「GUITARHYTHM Ⅵ」(ギタリズム6)をご紹介しましょう。

本作は、布袋のデビュー作「GUITARHYTHM」から続く、ギタリズムシリーズの6枚目という位置づけになります。しかし、全シリーズに共通したテーマなどはなく、しいて言えば、打ち込みのリズムトラックに布袋のギターという基本構成はありますが、まあ、布袋の気分的なものだと思われます。

前作が散々な出来だったのですが、本作はやや復調しているように感じます。しかし、今作は、全13曲がバラバラで統一感がないこと、ゲストに頼っている印象から、必ずしも良い出来とは言えません。

まず、統一感がない点ですが、メタル、歌謡ロック、80年代エレポップなどがあちこちに散在しています。これまでも様々なジャンルの曲が混在したアルバムは、古くは「GUITARHYTHMⅡ」からありましたが、今回はただジャンルがバラバラの曲が並んでいるという、それ以上のものが感じられません。そういうアルバムでも名盤とされるものはあると思いますが、それはあくまで収録曲1曲1曲が個性的で魅力がある場合のみです。前作でも同じことを感じましたが、どうも心ここにあらずのような、本当にこの曲を作りたくて作ったのか、と思わされるような、今までのアルバムにあった熱がないのですね。

また、本作の特徴として、多彩なゲスト(元BOOWY松井常松高橋まことMAN WITH A MISSIONCornelius)を迎えているところがありますが、正直言って話題作りでは、と思わずにいられないほど、布袋の存在感やモチベーションが感じられません。松井・高橋との「Thanks a lot」は、普通のJ-ROCKの曲にしか聞こえませんし、MAN WITH A MISSIONとの「Give It To The Universe」は、良い曲だと思いますが、正直に言って、布袋の曲というよりMAN WITHの曲ですね。

シングルになった「202X」は、アニメ「北斗の拳」のテーマソングとして作成された曲ですが、いわゆるアニメタルですね。サウンドは完全なメタルで、これまでの作品では「SCORPIO RISING」の収録曲に一番近いです。ただ、あのアルバムにあった、うっとうしいほどの気合のようなものはこの曲にはないですね。サウンドも布袋のボーカルも不思議なほど抑えられていて、すごく平熱で演奏しているように聞こえます。それが悪いわけではありませんが、この曲もやりたくてやってるのかな、と思ってしまうのです。

結論として、前作よりは良いのですが、布袋のモチベーションが感じられないという点では変わりなく、また残念という気持ちですね。次回作はもう少しインターバルをおいて、本当にやりたい音楽をやってくれたらうれしいのですが。

 

さて、これで布袋寅泰の全オリジナルアルバムのレビューが終わりました。次回はこれまでレビューしてきたアルバムをランキング付けします。乞うご期待。

【布袋寅泰】16 Paradox(2017)

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16 Paradox

はい、今回は布袋寅泰の16枚目のオリジナルアルバム、「Paradox」をご紹介しましょう。
このアルバムは、正直に言って、過去の布袋作品と比べて、失敗作と言わざるを得ないと思います。

その理由はいくつか挙げられますが、まず音質がこれまでの作品から大幅に落ちている点ですね。全体的にくぐもった、もやもやした音になっており、「AMBIVALENT」以降のハイファイな音から大分後退しているという印象です。

楽曲自体の質も、「DOBERMAN」以降キープしていたクオリティを保てず、印象に残らない曲が多いですね。ロックというより歌謡曲な曲が多いのも正直布袋には似合わないと思います。「ヒトコト」、「Paradox」、「Aquarium」などですね。

サウンド的にも個性やインパクトがなく、布袋らしさを発揮できている曲がない。こう書いていくと、本作は4枚目のオリジナルアルバム、「ギタリズム Ⅳ」に似ているなと気づきました。ただ、本作は全体的に、何か布袋自身が迷っているような、心ここにあらずのような雰囲気を感じます。その意味では、まだ自信満々な雰囲気があった「ギタリズム Ⅳ」の方が良いとも思いますが。

歌詞はこれまでになく社会的なメッセージを込めようとしているように感じますが、それも正直あまり似合わないなと思わずにはいられません。

総じて、どこかピントのずれた、ぼやけた印象のアルバムになってしまっているという感じですね。