Japanese Music Reviews

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【布袋寅泰】11 AMBIVALENT(2007)

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11 AMBIVALENT

はい、今回は布袋寅泰の11枚目のオリジナルアルバム、「AMBIVALENT」(アンビバレント)をご紹介しましょう。

オリジナルアルバムとしては、前作「MOSTER DRIVE」から2年ぶりとなりますが、間に「SOUL SESSIONS」というコラボアルバムを挟んでおり、毎年アルバムを出しています。これだけコンスタントに作品を発表できるのは才能の現れでしょうか。多作家が良いというわけではないですが、長年にわたってコンスタントに作品を発表し続けるのは、それだけでリスペクトの対象になると思います。

さて、本作ですが、まず一言で言ってしまうと、異色作、と言えるでしょう。ただ、6枚目の「SUPERSONIC GENERATION」はいわゆる問題作でしたが、本作は問題作というのとは違う。それは、サウンド的には極めて聴きやすいこと、布袋のボーカルがこれまでになく伸び伸びとしていることにあります。

サウンドの主な特徴としては、全体的にアコースティックギターやパーカッションなど生楽器の音にフォーカスが当てられており、広がりや解放感のある音になっている点です。これまでのアルバムとはこの点が全く違います。はっきり言って、今までで一番良い音のアルバムですね。

布袋のボーカルも、少し無機質だけれども、肩から力の抜けたような伸び伸びした歌い方になっています。少し「ギタリズム 2」のころに似ていますね。ここ数作、特に「SCORPIO RISING」のころをピークとして、妙に力んだ歌い方が定着していましたが、これは喜ばしい変化だと思います。

また、収録曲も今までとは全く趣向が変わっています。いわゆる歌謡曲がないこと、シングルになるような、誰もが分かりやすい曲がないこと、ロックな曲が少ないことが挙げられます。一聴しただけだと、人によっては地味な曲ばかりだと思うかもしれません。ただ、「PEEK-A-BOO」や「日々是上々」、「MINIMAL BEAUTY」(レディオヘッドみたいな曲!!)など、派手ではないけれども、気づけば耳に残る曲が多いと思います。聞きこむほどに好きになるような曲ですね。

また、今回のアルバムはタテノリのロックがなく、跳ねるリズムの曲ばかりなのですが、それに合わせて繰り出されるギターのカッティングが素晴らしいですね。やはりこの人はリズムギターにこそ才能があると思います。とは言ってもソロの音色もすばらしく、これまででトップ3に入るくらい良い音を鳴らしています。本作は結構音がスカスカ(鳴っている音が少ない)な曲が多いので、それだけギターが鳴るスペースがあるからかもしれません。

結論として、異色作であり、かなりの冒険作に仕上がっていると思います。そしてその冒険は成功していると思いますね。どの楽曲もバンドがイキイキと演奏しているのが伝わってきますし、楽曲自体も、決して派手ではないが、飽きが来ない、長く聞ける曲が詰まっていますね。音楽性がこれまでの作品と全く違うので、布袋の最高傑作と言われるようなアルバムではありませんが、傑作のひとつであることは間違いないと思います。本作の発表時点で布袋のキャリアは25年以上。よくここまで変化できたものと思いますね。