Japanese Music Reviews

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【氷室京介】01 FLOWERS for ALGERNON(1986)

FLOWERS for ALGERNON(1986)

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はい、今回から1日1枚ずつ、氷室京介のオリジナルアルバムをご紹介していきます。

第一弾は、氷室京介ソロの記念すべきファーストアルバム、FLOWERS FOR ALGERNONです。ダニエル・キイスの有名な小説「アルジャーノンに花束を」の原題がそのままアルバムタイトルに使われています。これは、当時氷室がアルジャーノンを読んで感動したから、らしいのですが、いくら感動したとしても、その本のタイトルをそのまま自分の作品につけますかね、という気はします。ただ、このときの氷室の心境として、推測ですけど、BOØWYを解散してソロでやっていくと決めたそのときに感じたことすべて、とにかく詰め込んでやろうとしたのが、このアルバムなのでは、と感じましたね。

ANGELにはソロでやっていくぞ、という気合いのようなものがビンビン伝わってきますけど、他の曲は、よくありがちな、前のバンドとは違う曲をやろう、という意地みたいなものはあまり感じられなくて。そのときやりたかったことをぜんぶやりました、といったような、なにも計算していない、素の氷室京介がいる気がするんですね。そこが本作の一番の魅力なのかなと思います。

曲としては、何はともあれ「ANGEL」ですよね。後で触れますが、この曲だけは80年代特有の古めかしさをあまり感じなくて、今でも充分カッコいい曲として通用すると思います。それは、バンドの音色だけが理由じゃなくて、何より氷室のボーカルの迫力・説得力にあります。この曲だけ迫力が全然違うんですよね。

また、声に加えて歌詞のすばらしさもあります。後年、歌詞を変えたバージョン(ANGEL 2003)が発表されていますが、やはりオリジナルにはかなわない。「臆病な俺を見つめなよ ANGEL 今飾りを捨てるから。裸の俺を見つめなよ ANGEL」このフレーズは氷室史上屈指のかっこよさだと思います。

一方で、ソロデビュー作特有の、後のキャリアからみて珍しい曲もいくつかあります。「DEAR ALGERNON」や「独りファシズム」がそうですね。これはバンドサウンドになっているからロックバラードみたいに聞こえますが、本質は、吉田拓郎泉谷しげるが歌っても違和感ないフォークソングではないかと思います。独りファシズムは作詞が泉谷さんなので特にそう思うのかもですが。こういう曲って、このアルバム以降無いんですよね。氷室さんも自分には合わないと思ったのかは分かりませんが、氷室京介の魅力とはちょっと違うかな、とは思います。曲としてはすごくいいんですけどね。

このアルバムの曲には、ライブでも定番の曲が結構あるようです。「ROXY」 、「SEX&CLASH&ROCK'N'ROLL」、「TASTE OF MONEY」などですね。他の曲もそうかもしれません。ですが、このアルバムの中ではそこまで魅力的に聴こえてこないですね。その一番大きい理由は、やはり音色の古さや、シンセの使い方などのアレンジが時代を感じさせるためですね。そこが気になってしまって、今の耳で聴いててあまり没頭できないのが残念なところです。

前述のとおり、このアルバムの最大の魅力は、素の氷室京介を感じられることだと思います。一方で、音色の古さから、今のリスナーに両手をあげてお勧めはしづらいところもありますね。ファンならば必聴というところでしょうか。

しかし、ロックファンならば誰でも、ANGELだけは聴いた方がいいですね。この曲には氷室京介ソロの魅力がギュッと詰め込まれています。この曲が好きになったら、氷室京介の他の作品も楽しめると思いますね。