【氷室京介】05 SHAKE THE FAKE(1994)
SHAKE THE FAKE(1994)
今回は氷室京介5枚目のオリジナルアルバム、「FAKE THE SHAKE」 をご紹介したいと思います。
このタイトル、偽物(FAKE)をふるいにかける(SHAKE)、という意味でしょうか?当時の氷室京介の気持ちが何となく垣間見える気がします。
前回、前作「Memories of Blue」は当時の流行にのった、氷室らしくない作品だと言いましたが、その反動が現れたのが本作だと思います。反動とは、「前作は一般受けを狙いすぎたのではないか」という反省から、ロックに回帰して、もっとハードな作品を作ろうと思ったのではと想像します。そう考えると、このタイトルも何となく意味が分かるような。
さて、ハードな作品と言いましたが、やはり前作よりロックしている曲が多いですね。「SHAKE THE FAKE」を筆頭に、イントロが叫び声のようで強烈な「HYSTERIA」、楽しい「DOWN TOWN ARMY」、ソウルフルな「LONESOME DUMMY」、SIONか矢沢永吉のような嗄れ声が印象的な「BLOW」など、どれも魅力的です。
本作までの作品では、サードアルバムの「Higher Self」がロックンロールの詰まったアルバムだと紹介しましたが、その意味では本作も負けてはいません。サードとの大きな違いは、曲の構成がより複雑になっていること、またギターのサウンドがサードに比べてカミソリのような切れ味の音色になっているところでしょうか。「SHAKE THE FAKE」がまさにそうですね。リズムも多彩であり、聴いていて飽きさせません。全体のサウンドもあまり古さを感じさせませんし。
ただ、全体を通じて、なにか切迫感のような、焦りのようなものを感じる作品でもあります。前作がどっしり構えたような雰囲気があったのに、本作は氷室京介のロックを証明しようと焦るかのようです。そういう意味で、収録曲のクオリティは高いのですが、名盤にある自信のようなものが感じられないのが惜しいところではあります。
また、全体的に捨て曲は少ないのですが、逆にこれという一曲がないという弱みもあります。またHigher Selfと比較しますが、あの作品は最後に「Jealousyを眠らせて」があるのでいいバランスだったのですが、本作はシングルが「VIRGIN BEAT」だけですし、この曲も曲構成が複雑でそこまでキャッチーでもない。そういうところから、氷室京介を始めて聴く人にはちょっと敷居が高いかもしれません。
この作品以降、バラードや歌謡曲的なメロディの曲が増えていくので、僕はこの作品までを氷室京介の前期と捉えています。そういう意味で前期はロックにこだわった本作で締めくくられたのでした。