Japanese Music Reviews

歴史の中で消費され、捨てられていく日本の音楽を紹介し、文化として再構築することの一助になれば

【氷室京介】04 Memories of Blue(1993)

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氷室京介、4枚目のオリジナルアルバム、Memories of Blue です。
直訳すれば青の記憶たち、でしょうか。青とは青春と言い換えられますが、そういう青臭い感じは確かにあるかもしれません。このアルバムは氷室京介最大のヒット曲、KISS MEが収録されていて、このアルバムも氷室京介の中で最も売れたアルバムになります。

では、中身のご紹介にいきましょう。

まずは、1曲目のKISS MEですね。このアルバムには3曲のシングルが収録されていて、その内の一曲になります。氷室京介の代表曲と言ってもいいでしょう。ただ、この曲、BOOWYのMarionetteとコード進行が似てるんですよね。それが悪いとかいうことではないですが、やはりどうしてもBOOWYの二番煎じに聞こえてしまう。当時はむしろそれが受けたのかもしれませんが、今の耳で聞くと、じゃあBOOWY聴こう、となってしまいそうですね。よくできた歌謡ロックだと思うのですが。

ただ、アルバム全体としては、KISS MEは若干浮いています。前作Higher selfが「Jealousyを眠らせて」を最後に配置して、いわばボーナストラックのような扱いにしていたのと理屈は同じで、本作はまずボーナストラックが来て、2曲目から本当のアルバムがスタートするような印象ですね。

その2曲目「YOU’RE THE RIGHT」ですが、アメリカンロックのような、スケールの大きい曲です。決して悪い曲ではないのですが、当時ヒットしていたJ-WALKの「何も言えなくて…夏」に似てるなと思ってしまいます。また、同じようなところで、シングル曲「Good Luck My Love」は、イントロがどうしてもCHAGEASKAの「YAH YAH YAH」に聞こえてしまいますね。

と、はっきり言ってこのアルバム、当時の流行りに乗った音作りがなされた作品ですね。そのため、過去3作にあったような個性は薄い作品だと言わざるをえません。メロディが印象的な曲はあるのですが、サウンドに個性がないと、一定以上楽曲に没頭できない。それは一つの音楽として、説得力がないからでしょう。その流行りの音と氷室京介の相性が悪いわけではないのですが、どうも借り物のように聞こえてしまうんですね。いやな言い方をすれば、まるでカラオケで歌っているかのような。

ただ、氷室京介のボーカル自体はよいです。これまではどこか肩に力の入った、攻撃的な歌い方が多かったのですが、本作ではそこがガラリと変わっていて、どの曲も非常にリラックスしていて、のびやかに歌う氷室京介が聞けます。サウンドや楽曲云々よりも、その点が本作の一番の魅力かもしれませんね。声だけで楽曲に一定の説得力を持たせられるところは流石です。

総じて、90年代初頭に流行っていた音であり、個性は薄い作品ではあります。ですが、80年代ほどの古臭さはなく、ある意味今の若い人には新鮮な音かもしれない。グッドメロディの曲はあるし、「SON OF A BITCH」のようなロックンロールも入っていて、一定のバランスがとれている、非常に聞きやすいアルバムですね。一聴の価値は大いにあると思いますよ。