Japanese Music Reviews

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【氷室京介】06 MISSING PIECE(1996)

 

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06 MISSING PIECE(1996)

今回は氷室京介6枚目のオリジナルアルバム、MISSING PIECE(ミッシング・ピース)をご紹介します。

このアルバムから、氷室京介ソロキャリアの中期と区分できる気がしています。その理由は、単に所属レーベルがEMIからポリドールに変わったからではなく、5枚目までのどのアルバムにも感じられたロックに対するこだわりが、このアルバム以降希薄になっていくと感じられるからです。

そして、本作ですが、率直に言って、氷室京介史上、もっとも売ることを意識した作品ではないかと思います。1曲目の「STAY」なんて、狙いすぎだと言いたくなるくらい、売ることを意識した、わかりやすい曲に仕上げられています。「SQUALL」も同様ですね。この2曲はロックというより歌謡ロックと言った方が正確でしょう。歌謡曲だからダメということではなく、僕も長らく氷室京介の代表曲といえば、これらの2曲と「KISS ME」が思い浮かんだものです。ただ、ひとつだけ言わせてもらうと、こういった歌謡曲的な曲は、これまで意図的に氷室京介が避けてきたところだったんじゃないかと思うんですね。歌謡曲的なアプローチで作曲すれば、売れるかもしれない、しかし自分はロックにこだわる。というこだわりが、前作まではあったのではないか。そう感じるから、本作は決して悪いアルバムではないとは思いつつも、積極的に評価しようとは思えないところです。

また、本作からしばらくの間、バラードが増えていきます。「魂を抱いてくれ」や「WALTZ」、「IF YOU STILL SHAME ME」などですね。本作で氷室京介はバラッディアーとしても相当優秀であることを証明しています。ここはやはり氷室京介初のバラードシングルである「魂を抱いてくれ」が素晴らしいですね。作詞家として松本隆を起用した最初の作品ですが、歌い出しの「雨粒の中、街翳が回る」というフレーズには何か特別なマジックがあると思います。名曲です。

AOR(Adult Oriented Rock)的な曲が多いのも特徴ですね。「PLEASURE SKIN」や「MIDNIGHT EVE」がそれですが、悪くないですけども、特に氷室京介がやることもないかな、とは思います。普通という感じですね。

全体を見て、バラードや歌謡曲、果てはAORで構成されたこのアルバム、氷室京介の新機軸を示したアルバムとも言えますが、ハッキリ言ってしまえば、落ち着いた大人の、刺激の少ないアルバムにもなってしまっています。最後の曲で思い出したかのようにロックな曲が出てくるのも、逆に中途半端な感じになっていますしね。結局、冒頭に書いたようにロックへのこだわりが感じられないことに尽きるのですが、それを良しとするかどうか。そして、後の作品を見るに、やはり本人も思うところがあったのか、次作以降、本作のような歌謡曲AORのアプローチはなくなっていき、ロックへ回帰していきます。

最後に、タイトル曲のMISSING PIECEについて一言だけ。当時の氷室京介の心境はこの曲に一番強く現れている気がします。何かを探し続けているが、自分が何を求めているのか、それがまだ見えない。しかし歩き続けることを選んだ自分。そんな心境が歌詞と声から聞き取れる気がします。そういう意味で、本作で一番魅力的なのはこの曲だと思っています。何にせよ、いわゆる過渡期の作品ということでしょうか。