Japanese Music Reviews

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【氷室京介】11 IN THE MOOD(2006)

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11 IN THE MOOD(2006)

今回は、氷室京介11枚目のオリジナルアルバム、「IN THE MOOD」をご紹介します。
前置きなしで単刀直入に言えば、このアルバム、前作「FOLLOW THE WIND」の路線を引き継ぎつつ、当時アメリカで流行っていたエモ系のバンドサウンド、またリンキンパークのようなニューメタルのサウンドを取り入れ、前作より激しいサウンドになっています。ただ、当時で氷室京介、40代半ばだったと思いますが、その年齢でエモに接近するというのは中々珍しいことではあります。エモって基本的にティーンのためのロックですから。

前作は落ち着いた雰囲気のある、大人の歌謡ロックアルバムだったのですが、今回も歌謡ロックというところは変わらず、サウンドがエモやニューメタル仕様になったという印象です。

ただし、歌謡曲ロックとしてのメロディは、こちらの方が完成度が高いと思われます。キャッチ―な曲の多さでは、もしかしたら本作が一番かもしれませんね。それだけ覚えやすい曲ばかりです。シングルも3曲収録されていることもありますが、特に「WILD ROMANCE」は後期の氷室京介を代表する楽曲でしょう。イントロのギターリフが初期の氷室京介のロックサウンドを彷彿とさせますし、サビとAメロの間のブリッジ部分が技ありというか、ただの勢いだけのロックではないと証明しています。他に「Easy Love」(ただしラップは要らないと思うのですが。)も悪くないです。

一方、「Say Something」については、GLAYTAKURO作詞作曲で、演奏もGLAYなのですが、イントロのギターのリフがあまりにもGLAY的なので浮いていますね。この曲を聴くと、前作からの歌謡ロック路線は、GLAYからの影響が大きかったのではないか、と思わされてしまいます。

と、全体的に悪くはないのですが、ただ、アルバム全体を見て、これが前作FOLLOW THE WINDを超えたとは言いたくないところがあります。それは何故か。

このアルバム、何故かは分からないのですが、12曲収録のうち、2曲もカバー曲(というかほぼカラオケ)を収録しているんですね。Jimmy Eat WorldとAFIというアメリカのエモ系バンドの曲のカバーです。どちらのバンドも90年代前半に結成されたロックバンドで、本国で成功しているバンドではありますが、僕が気になるのは、わざわざ自作曲ではない曲を収録する必要性があったのか、またこれら2曲を、原曲ほぼそのままのアレンジで収録したのは何故か、ということです。

自分の作品にカバー曲を収録すること自体は昔から行われてきたことですし、別に変なことではありません。しかし、近年では珍しいことであるのは間違いありませんね。カバーがなくても10曲はあったのだし、わざわざ入れる必要があったのか。またカバーするにしても、昔からの名曲とかではなく、そのとき流行っていた曲というだけなので、その曲にする必然性もよくわからない。更に言えば、カバーするにしても、原曲そのままで収録しているので、ほとんどカラオケと同じになってしまっています。

このように、変なところでケチがついてしまったのですが、その点を除けば、確実に氷室京介の作品中、上位に入る作品だと思います。まあ、だからこそもったいないな、と思うのですが。