Japanese Music Reviews

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【布袋寅泰】07 fetish(2000)

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07 fetish(2000)

はい、今回は布袋寅泰の7枚目のオリジナルアルバム、「fetish」(フェテイッシュ)をご紹介しましょう。
前作の「SUPERSONIC GENERATION」は、クラブミュージックとロックの融合をテーマにした、これまでと全く違う音楽性だったので、次のアルバムはどうなるのか、と当時のファンの方は思ったんじゃないでしょうか。同じ路線でいくのか?それとも以前のスタイルに戻るのか?はたまた全く違うものになるのか?などなど。そんな中届いた本作は、果たしてどんな作品になっていたのか。

まず、サウンド的には、前作は何だったのか、といいたくなるくらい、以前の音に戻っていますね。シングルの「LOVE JUNKIE」はドラムンベースを導入していたり、全く前作との繋がりがないわけじゃないですが、「ギタリズム2」のころの音をさらに洗練された感じ、といえばよいでしょうか。ただ、ホーンセクションがどの曲にも大きくフィーチャーされており、それが本作の大きな特徴になっています。

ただ、では本作はギタリズム初期のころに戻ったアルバムか、と言われると、それも少し違うのかなと思います。これは本作のテーマではないかと思うのですが、自身の音楽的なルーツ、すなわちロキシーミュージックやデヴィッド・ボウイなどに改めて向き合って作成した、自身のルーツに立ち返った作品、それが本作のような気がします。

そういったテーマのもと、布袋の個人的な好み、偏愛が大きく影響しているからか、個々の楽曲には、どちらかというとマニアックなものが多いような気がしますね。一聴してすぐわかるような、わかりやすい曲、キャッチ―な曲というのは少ないです。

それが作品として悪いこととは全く思いません。ですが、もう一方では、メロディが弱い曲が少し多い気はしますね。「No.1 IN THE UNIVERSE」など、メロディがありきたりに聴こえてしまいます。

 結論としては、即効性はないけれども、一部の音楽ファンにとっては刺さる、マニアックな作品というところでしょうか。正直、ちょっとパンチに欠けるところはあるのですが。たまに取り出して聞いてみると意外な発見がある、そんな、長く付き合えば良さが分かる作品のような気がします。

【布袋寅泰】06 SUPERSONIC GENERATION(1998)

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06 SUPERSONIC GENERATION(1998)

今回は、布袋寅泰、6枚目のオリジナルアルバム、「SUPERSONIC GENERATION」をご紹介しましょう。

この作品、これまでの布袋の作品中、最も攻撃的な作品ですね。サウンドはハウスやドラムンベースなどエレクトロサウンドで統一されており、ギターもこれまでとは違い、電子音の一部として扱われています。

また、共作が多いのも本作の特徴ですね。全10曲中、4曲が海外の作家との共作となっています。ただ、共作曲とそれ以外の曲で、そこまで色合いの違いは感じません。エレクトロサウンドの大幅な導入のために、ヘルプとして共作を増やしたわけではないようです。サウンドの完成度は高いと思います。

しかし、前作「King & Queen」があれだけポップで分かりやすい作品として大ヒットした後にこういう作品が届くとは、当時、誰も思わなかったでしょうね。言ってしまえば保守的なロックサウンドを展開していたのに、今回で突然尖った音を出してきたのですから、ファンの期待というか思いを裏切ったと言われても仕方ないでしょう。逆に「ギタリズム3」の後に本作が出ていたら、よりサウンドを進化させた、と評価されていたかもしれません。サウンド的に一番似ているのが「ギタリズム3」なので。

これはアルバムの完成度とは関係のないところではありますが、「King & Queen」の後にリリースする作品としては、本作のような尖った作品ではなく、むしろ「ギタリズム2」のような重厚な大作をこそ出していれば、シーンの尊敬も勝ち得ていたような気がします。ここでこういうアルバムを出したが故に、その後、よくわからない人というイメージがついたような気もするからです。

さて、そんな話はここまでにして、次はもっとアルバムの内容について見ていきましょう。
まず、全体的にこの作品、前年にリリースされたU2の「POP」という作品からの影響が大きいように思います。この作品は、ダンスミュージックのビートにロックを乗せるという、U2の中でも実験作と呼べる作品でしたが、このアルバムも同じアイディアの作品ではないかと。ただサウンドU2よりよっぽどヘヴィですが。

なお、U2は外部プロデューサーを招へいして作成していますが、布袋は自らが一人で作曲にプロデューサーも兼ねており、(もちろん単純に比較できることではありませんが)やはり音楽的才能はすごいものがあると言わざるを得ないですね。

個々の楽曲についてみれば、カバーになってはしまいますが、なによりもまず、レッド・ツェッペリンの「immigrant song」これがすさまじいですね。日本の音楽家のなかでこれだけメジャーな人の作品で、ここまでエッジの聞いた音が聞けるとは思いませんでした。

原曲の魅力は何といってもリフのかっこよさですよね。最初の一音からいきなり沸点までもっていく、圧倒的かつ暴力的なリフですが、そのリフの持つエネルギーを全く損なうことなく、現代版にアップデートすることに成功しています。また、イントロのボーカル部分(アアアー)もギターで表現されていてモダンな印象を与えており、ボーカルもエフェクトかけまくった声でぶつぶつ歌うのがこれまたかっこよい。カバー曲ではありますが、これまでの布袋の楽曲の中でも圧倒的に素晴らしいです。

「immigrant song」はこれまであらゆるバンドにカバーされていて、有名どころでは、10年近く前になりますがナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーがカバーしたものもありました。ですが、この曲はその中でもかなり出色の出来でしょう。トレントのバージョンよりも確実に勢いやオリジナリティがありますしね。

と、カバー曲ばかり褒めていますが、それ以外の曲だと「BELIEVE ME,I’M LIAR」や「MYSTERY OF LOVE」がよいですね。と言っても前者はボーカルレスの曲で、布袋の楽曲という感じは全くしませんが。ただし、この曲のギターは世界基準でかっこいいと思いますね。後者は、バラード曲ですが、サビのいかにもU2なギターがよいです。

結論ですが、本作、その暴力的に尖ったサウンドから、誰にでも勧められるような作品ではないですが、そのサウンドは世界基準で通用するほど完成度の高いものだと思いますね。布袋は「スリル」の印象しかないという人ほど、一度でいいから聞いてみてほしい、そんなアルバムですね。

【布袋寅泰】05 King & Queen(1996)

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05 King & Queen(1996)

今回は、布袋寅泰5枚目のオリジナルアルバム、King & Queenをご紹介しましょう。

このアルバムは、布袋のオリジナルアルバムで最大のヒット作ですね。ずばり代表曲「スリル」が入っていますし、「ラストシーン」もヒットしました。ただ、それに限らずアルバム全体のクオリティは高いです。

路線としては、前作の歌ものを聴かせる路線の延長線上にありますが、過去4作が持っていた多様な音楽性のエッセンスを抽出して、すごく分かりやすい形に噛み砕いたような、誰でも楽しめるアルバムになっています。これまでの布袋の集大成とも言えますね。

個々の楽曲については、まずはシングル3曲でしょうか。江頭2:50のテーマソングにされてしまった「スリル」ですが、サビの「baby」大連発は一回聴いただけで誰もの耳に残るのでは。歌謡曲的な構成の曲ではありますが、楽しいロックナンバーだと思います。
「ラストシーン」も素晴らしいですね。タイトで緊張感のあるバラードに仕上がっています。布袋流のバラードの一つの完成形ではないでしょうか。
「命は燃やしつくすためのもの」は、タイトルがちょっと古めかしいのですが、布袋史上もっともスケール感のある曲ですね。ギターがイキイキしていて良いです。また、この曲、地味にドラムソロが入っているのですが、ドラムソロが入ったシングル曲というのも珍しいですね。

アルバム曲も「TWO OF US」、「King & Queen」、「FULL MOON PARTY」など佳曲が多いです。インストの2曲(「SPACE COWBOY」、「VELBET KISS」)もアルバムのいいアクセントになっています。しかしロカビリー調の曲(「RUNAWAY!JOHNNY!!!」、「FULL MOON PARTY」)が2曲もあるのは、ブライアン・セッツァーが参加しているとは言え、少し余計な気もします。別にロカビリーのアルバムじゃないので一曲で良かったかと。

最大のヒット作だけあって、非常にキャッチ―という意味で、やはり完成度は高いです。聴いた後の満足感もありますしね。ただ、これは欠点ではないのですが、新しいことにチャレンジするような野心的なアルバムではなく、誰もが落ち着いて楽しめるアルバムなので、物足りなくなるところはあるかもしれません。そして、その反動なのか、次作は布袋史上最もハードな作品になるのでした。

【布袋寅泰】04 GUITARHYTHMⅣ(1994)

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04 GUITARHYTHM Ⅳ (1994)

今回は布袋寅泰の4枚目のオリジナルアルバム、「GUITARHYTHM IV」をご紹介しましょう。

まず、結論から言いますが、このアルバム、前3作と比べて「凡作」と言わざるを得ませんね。全体的に今まで以上に歌ものを意識した作品に仕上がっているのですが、もはやロックでもなく、ただの歌謡曲になってしまっており、布袋寅泰の作品として聴く必要性が感じられないのです。つまり、本来の布袋の魅力が全くでてきていないのですね。

布袋の魅力とはなにか。僕はなによりギターの切れ味と、それを最大限に活かした曲作りだと思います。ギターがイキイキしていなければ、いくら楽曲としては良くても、布袋としては微妙だと思うのです。例えば、シングルの「Surrender」も、良くできた曲だとは思いますが、布袋じゃなく、TOKIOとかに提供していた方がしっくりくるのではないか。同じくシングルの「さらば青春の光」もそうですね。良い曲かもしれないけれど、別に布袋が歌わなくてもいいのでは、ということです。それは、結局のところ曲のクオリティが落ちているということなのかもしれません。アルバム曲に至っては、ロック的な曲もありますが、どこにでもあるようなサウンドに収まっていて、これまでの個性的な作品とは比べるべくもないと言わざるを得ません。本作で一番印象的なのが、一曲目のオーケストラによるインスト曲なのが残念ですね。布袋作曲でもないですが。

あと、言っておかないといけないことは、アルバムのアートワークについてですね。このアルバムは1994年のリリースですが、過去三作よりよっぽど古めかしく、むしろ80年代物的な匂いを感じるのはどうしたことか。

本作は、あるいは布袋の声が好きという方なら楽しめるかもしれません。歌唱力はどんどん上がっていますし、どの曲も歌を聴かせるためのアレンジになっているので聴きやすいと思います。ただ、布袋の本当の魅力はそこにはないと思うのですが。

【布袋寅泰】03 GUITARHYTHM Ⅲ (1992)

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03 GUITARHYTHM Ⅲ

今回は、布袋寅泰のサードアルバム、GUITARHYTHM Ⅲをご紹介しましょう。
前作は、布袋の音楽的なルーツを元に、あらゆる種類の楽曲が24曲も詰まった作品でしたが、本作は音楽性でいうと、古い言葉ですが「デジタルロック」をテーマにした楽曲で統一されており、前作とは全く違う作風ですね。

前作からわずか1年でのリリースですが、これだけアルバムごとに音楽性が変わる人も、当時の日本では珍しかったのではないでしょうか。しかもそれでチャートのトップ争いをしていたのですから大したものです。

そして、ここでいう「デジタルロック」とは、打ち込み主体のロックということですが、言ってしまえば、イギリスのバンド、ジーザス・ジョーンズのことですね。かのバンドの影響で作成されたと言っても言い過ぎではないのでは、と思うくらい強く影響されています。実際、「ELECTRIC WARRIOR」はジーザス・ジョーンズのボーカルのマイク・エドワーズと共作していますしね。

ただ、打ち込みサウンド自体は今回初めて導入したのではなく、ファーストアルバムがポップな打ち込みサウンドなので、慣れていたのか、借り物のような感じはなく、自分のサウンドに落とし込んでいるのは流石ですね。特筆すべきは、「EMERGENCY」や「さよならアンディ・ウォーホル」でしょうか。「EMERGENCY」は布袋初のハウスをとりいれた曲で、良い意味で布袋だとは気付かない曲ではないでしょうか。「さよならアンディ・ウォーホル」は、スローテンポのシャッフルの曲ですが、今の耳で聞くとマリリン・マンソンに聞こえますね。もちろんパクリとかではなく、この時点でマリリン・マンソンはまだデビューしていないので、初めて聞いた時には驚きました。

ただ、このアルバム、過去2作と比べてギターがあまり出てきません。ジーザス・ジョーンズ的なサウンドはすごくうまく作れているのですが、布袋の魅力と言えばやはりギターだと思うので、アルバムを聴いても、その点が消化不良を感じるところはあります。

また、楽曲のクオリティも、前2作と比べて落ちているように感じますね。前作は2枚組だったので、楽曲も玉石混交のところはあったのですが、それでも打率はあちらの方が高かったと思います。サウンドへのこだわりは素晴らしいのですが、楽曲自体の質は若干弱いかな、という印象です。

ただ、決して失敗作ではなく、一聴の価値は大いにあります。何といってもサウンドだけ聞けば洋楽とそん色ありませんし、なにより前年(1991年)にジーザス・ジョーンズが「Doubt」でブレイクした一年後にこれだけのものを作れるのはすごいことです。ジーザス・ジョーンズ自体は、「Doubt」と同年にリリースされたニルヴァーナの「NEVERMIND」によるグランジ革命で、シーンから一瞬にして消えてしまうのですが。

【布袋寅泰】02 GUITARHYTHM Ⅱ (1991)

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02 GUITARHYTHM Ⅱ (1991)

今回は、布袋寅泰のセカンドアルバム、「GUITARHYTHM Ⅱ」をご紹介しましょう。
このアルバムは2枚組24曲の大作ですね。ソロ2作目にして2枚組というのは制作意欲が旺盛だったのでしょうか。ただ、2作目といっても、前作の「GUITARHYTHM」の後に吉川晃司と「Complex」を結成し、アルバムを2枚発表して解散した後なので、前作とは経験値という意味では全くレベルが違うのかもしれません。

まず、本作はサウンドの完成度が前作と段違いですね。洋楽的なサウンドになっていて、歌がなかったら邦楽とは思わないんじゃないかな。特にギターの鳴りが全く違っていて、前作はハードロック然とした音色でしたが、本作では曲ごとに様々な色を出しつつ、前作と比べてよりファンキーかつふくよかな音色になっていて素晴らしいですね。

また、もう一つのポイントですが、本作は単にギターだけにこだわるのではなく、音楽家布袋寅泰としてのデビュー一作目のようなニュアンスがあります。24曲それぞれの音楽性が幅広く(ゴスペルに始まり、ハードロック、ファンク、AOR、インダストリアル、パンク、プログレ等々)、必ずしもギターが主役ではない曲も複数あります。前作は、歌ものでありつつ、いかにギターを主役として聴かせるかを考えて作ったアルバムという感じがあり、その路線も決して悪くなかったのですが、どちらかというと本作はギターよりも歌が主役ですね。

それは歌詞が日本語になっていることも関係ありますが、「YOU」など、どの曲も歌を聴かせる曲、アレンジになっているので、前作と比べてすごくわかりやすい作品になっています。長いですけどね。

ただ、それだけボーカルが重要な曲が増えたということは、ボーカルの力量が問われる曲も増えたということです。そして、布袋寅泰にとって日本語で19曲(インストも5曲あります)を歌うのというのは大きなチャレンジだったに違いありません。結果、決して下手とは感じないのですが、音程を必死で追っている感じがして、ボーカルが無機質な歌い方になっている気がします。ですが、それが良いという方もいるようで、それもよくわかります。

個々の楽曲についても見ていきましょう。まず、「PRISONER」や「SPHINX」、「NOT FOR SALE」のギターは素晴らしいですね。この人のギターの特徴って何だろう、と思ったとき、特にカッティングに魅力があるなと思うのですが、リズムがすごく正確なギターを弾く人ですね。音色にはそこまで個性を感じないのですが、リズムがすごく正確なので、聞いていて気持ちがいいんですね。そのリズムが正確な点が、サウンドの洋楽っぽさの理由のひとつなのかもしれません。

歌が印象的な曲としては、やはり「YOU」や「RADIO! RADIO! RADIO!」でしょうか。前者は、布袋の歌の魅力が一番よく出ている曲ですね。優しい歌い方が素敵です。後者は、イギリスのニューウェーブのバンドみたいな曲で、日本人離れした素晴らしい曲です。80年代のイギリスのバンドのカバー、と言われても信じてしまうかもしれません。

逆に「SLOW MOTION」や「FLY INTO YOUR DREAM」は、曲がいいのですが、ボーカルの力量が追い付いていないように感じますね。また「DEVIL’S SUGAR」はいかにも80‘s的なギターとドラムが鼻につきますし、「DRIVIN TO YOUR HEART TONIGHT」はヴァン・ヘイレンみたいなギターのハードロックで、全体から少し浮いていますね。「MERRY-GO-ROUND」はいかにも邦楽的なバンドサウンドなのが、ほかの曲と比べて余計ダサさを感じてしまいます。
ただ、2枚組の作品で全曲素晴らしいという作品はほとんどないと思いますので、それらの曲があるからと言って、本作の評価が直ちに下がるわけではないと思います。

総括すれば、本作は音楽家布袋寅泰が、持てる才能すべてを発揮し始めた作品であり、傑作であると言えると思います。後年の「スリル」や「バンビーナ」のイメージが強すぎて、この作品の素晴らしさがうまく伝わっていないのではないでしょうか。布袋の代表作というべき作品ですね。

 

【布袋寅泰】01 GUITARHYTHM (1988)

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01 GUITARHYTHM (1988)


はい、今日から布袋寅泰の全オリジナルアルバムを毎日1枚ずつレビューしていきたいと思います。
本日は、布袋寅泰のソロとしての記念すべきファーストアルバム、GUITARHYTHMをご紹介しましょう。
このGUITARHYTHM(ギタリズム)というタイトルですが、布袋のアルバムのシリーズ名にもなっていきます。なので、本作はソロのファーストアルバムでもありつつ、ギタリズムシリーズの第一作目にもなりますね。ギタリズムとは布袋の造語で、ギターとリズムをつなぎ合わせた言葉になります。布袋と言えばBOOWYBOOWYの音楽の特徴と言えば、その8ビートが挙げられますが、ビートという言葉に布袋も、BOOWYのボーカル氷室京介もこだわりがあるようですが、このギタリズムと言う言葉も、ギターとビートという2つにこだわったアルバムという意味ではないでしょうか。

では、内容について行きましょう。まずざっくりとした感想ですが、この作品、宅録みたいなチープなサウンドの楽しいアルバムですね。気軽に楽しめる、実はすごく敷居の低い作品だと思います。その理由ですが、この作品、ギター以外は打ち込みだと思うのですが、そのサウンドが実に古めかしいチープなサウンドで、なんとも拍子抜けするんですよね。対照的なんですが、氷室京介のファーストアルバムは気負った感じがすごく出ていて、それがひとつの魅力にもなっていましたが、こちらは全然気負った感じがしなくて、一人、家で楽しみながら作ったような(実際は普通にチームで制作していますが)肩の力が抜けた感じがよいですね。

それに、結構ユニークな聴き応えもあります。ギターだけ聞くと結構ハードな音色だったりするんですけど、ギター以外はエレクトロポップみたいなサウンドなので、いわば初期のYMOにハードロックのギタリストが加入したみたいな感じ、とでも言えばいいでしょうか。「C’MON EVERYBODY」(エディ・コクランのカバー)のようなロックもありますが、ロックというよりエレクトロポップと言った方が近い曲(「DANCING WITH MOONLIGHT」、「WAITING FOR YOU」とか)も多いですし、その折衷感がこのアルバムの魅力ですね。

そして、このアルバム、全曲で布袋が歌っているんですが、「スリル」みたいなクドい歌い方ではなくて、もっと抑えた感じで歌っているので、あの歌い方が苦手という人にもとっつきやすいと思います。軽く聞き流せる感じというか(良い意味で言っています)。

ギタリズムというだけあって、どの曲もギターが主役なので、ボーカルはそのくらいの方がいい気がします。そして全曲英詩(一曲ドイツ語!)なのもよいですね。決してアメリカやイギリス的な音楽には聞こえないんですが、不思議な無国籍感があって、それも魅力の一つになっています。
一曲挙げるとすれば、やはり先ほど挙げた「C’MON EVERYBODY」のカバーでしょうか。ライブでの定番曲でもあるようですし、このキャッチ―さとチープな打ち込みサウンドは妙に癖になります。この曲だけでも聞いてもらえれば、布袋のいかついイメージ、かなり変わるんじゃないかな。

全体的に、本作、かわいらしい感じがする、キュートなアルバムと言えますね。ですが、残念なことに、こういうアルバムはこれっきりになり、以降はどれもハードなロックアルバムになっていきます。このアルバムの後、complexを結成・解散して、その後にセカンドアルバムが制作されているので、以降の作品が本作とはだいぶ違うのは仕方がないと思います。ですが、このアルバムの路線をもっと発展させていったらどうなったのか、興味はありますね。