Japanese Music Reviews

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【布袋寅泰】00 はじめに

はい、前回で氷室京介の全オリジナルアルバムレビューが終了したので、次の作家に取り組みたいと思います。次はこの人です!

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布袋寅泰


はい、単にBOØWYつながりということですが、ただこの人の作品、僕は今まで一枚も聴いたことがなく、「Baby Baby」のイメージくらいしかないです。ただ、キャリアは長く、今でもコンスタントに新作をリリースし続けており、もう18作になるそうです。それだけのキャリアのある人だから、何かしら聞き応えはあるだろうという予想とともに、見切り発車で次回からレビューしていきたいと思いますので、乞うご期待!

【氷室京介】全オリジナルアルバムランキング

氷室京介全オリジナルアルバムランキング

はい、前回までで氷室京介の全オリジナルアルバムのご紹介が終わりましたが、今回は、これまでご紹介してきたアルバム12枚に順位をつけていきましょう。では12位からカウントダウン方式でいきます。

12位 I·DE·A(1997)

最下位は、7枚目のI·DE·Aになりました。これはスティーブ・スティーブンスのアルバムになってしまっていて、しかもそれがかなり古くさいエイティーズハードロックだったからですね。氷室京介との相性も決して良くなかったと思います。シングルはいいのですが、アルバム曲がどうにも。

 

11位 MISSING PIECE(1996)

このアルバムは、ヒットを狙った歌謡曲的な曲が目立つアルバムですが、曲として悪い訳ではないです。ただ、あまりにもロック的な要素がないので、ロッカーとしての氷室京介を聴きたい身として、あえて低い順位にしました。ただ、初めて聴く人はこのアルバムから入っていくのはアリだと思います。聴きやすいし、ヒット曲もありますしね。

 

10位 "B"ORDERLESS(2010)

現時点でのラストアルバムですね。珍しく特に新しい試みのない、総決算のようなアルバムで、ロックな曲で最初から畳み掛けてくるのですが、曲が弱くて印象に残るのは矢沢永吉みたいな嗄れ声だけというのが残念なアルバムです。中盤からはよい曲もありますし、「BANG THE BEAT」は後期を代表する名曲だと思うのですが、何度も聴きたくなる作品かといえば、そうでもない。

 

9位 FLOWERS FOR ALGERNON(1986)

記念すべきファーストアルバムですね。ファンによってはこのアルバムを最高傑作にあげる人もいるのではないでしょうか。なんといっても「ANGEL」が入っていますし、アルバム曲も「ROXY」「LOVE&GAME」、「SEX&CLASH&ROCKNROLL」と、ライヴでの定番曲が多数ありますから。ただ、このアルバムはいかんせん音が古すぎて、その時点で聴く人を選ぶので、そこまで上の順位には出来なかったですね。

 

8位 Memories of Blue(1993)

8位は、氷室京介最大のヒット作ですね。これも人によっては最高傑作に選ばれるのかもしれません。ただ、サウンドが当時の流行りの音なので、どうも借り物のように感じられてしまうのが残念なところです。曲自体は次の「MISSING PIECE」と同じくらい聴きやすいし、でもロック的なところも残っていて、そういう意味ではバランスのいい作品と言えるのかもしれません。決して悪い作品ではないです。

 

7位 FOLLOW THE WIND(2003)

このアルバムはいわゆる歌謡ロック路線のアルバムですね。サウンドは前作に比べて大分ハードになりつつ、哀愁のあるメロディの曲が、時おり挟み込まれるラップ(的な歌)と相まって、独自の世界観を作っています。全曲の作詞を担当した森雪之丞の世界観でもありますね。これ、2003年の作品なのですが、当時としてはかなり新しい試みの作品だったのではないかと思います。ただ、シングルの「Claudia」は、アレンジがもろに90年代的で、歌メロをなぞるシンセが気になって、トゥーマッチな気持ちにはなります。

 

6位 beat haze odyssey(2000)

おそらく、このアルバムを6位にするファンはあまりいない気がします。でも、これはもっとも過小評価されているアルバムですね。6位に選出した理由は、単純に収録曲がどれもよいからですね(まあ、ラストの曲はちょっと微妙ですが)。氷室史上もっともポップに寄せた作品で、異色作であるのは間違いないですが、どの曲も良くできています。「Julia」が特に素晴らしいですね。ロックではないけれども、これだけよい曲が揃えられれば、なにも言えません。曲数が少ないのも、それほどウィークポイントにはなっていないと思います。何度もリピートしやすいですしね。

 

5位 IN THE MOOD(2006)

11枚目のアルバムですね。エモやニューメタルに寄せたサウンドは若々しさを演出しつつ、楽曲はよく練られており、勢いだけでないベテランの技が効いたアルバムです。カバー曲が2曲あるのが気にはなるんですが。前作「FOLLW THE WIND」の歌謡ロック路線を引き継いだ歌謡曲的なメロディの曲(「Sweet Revolution」など)も悪くはありませんが、「WILD ROMANCE」が頭ひとつ抜けてますね。この曲に引っ張られてアルバム全体のテンションも上がっています。後期の代表作と言えるでしょう。

 

4位 NEO FASCIO(1989)

4位は、セカンドアルバムの「NEO FASCIO」になりました。このアルバムは、個性や完成度から言えばもっと上位でもいい作品ですが、やはり氷室京介の作品としては最も異質・異端なので、この順位が妥当ではないかということです。ただ、最も知名度の低いアルバムだと思うので、もっと知られていい、隠れた名作ですよね。

 

3位 MELLOW(2000)

このアルバムも、「beat haze odyssey」と同じく、捨て曲の少ないアルバムですね。「永遠」のような乾いたバラードも魅力的ですが、「jive!」や「bring da noise」のようなグルーヴィなロックも良いし、全方向に良くできたアルバムという感じです。バラード集と誤解されてそうなので、もっと聴かれるべきアルバムかとも思います。

 

2位 SHAKE THE FAKE(1994)

あとは、ひたすらロックな曲がカッコいいアルバムですね。2位は5枚目のこのアルバム。ヒリヒリするような切れ味の鋭いギターのタイトル曲もあれば、氷室史上もっともブルージーな「BLOW」もあり、聞き応えのあるロックナンバーが詰め込まれたアルバムです。アルバムを通して、焦燥感や原状に満足できない飢えのようなものが伝わってきて、それがこのアルバムを別格の存在にしている気がします。ロック好きなら是非聴いてほしいアルバムです。

 

そして、僕が選んだ氷室京介の最高傑作は、これです。

 

1位 Higher Self(1991)

3枚目のアルバム、「Higher Self」ですね。このアルバムは、2位の「SHAKE THE FAKE」と同じくロックにこだわったアルバムだと思いますけど、あの作品になかった決定的な曲が、本作には3曲も入っており、またアルバム曲も捨て曲なしと、文句無しの1位です。3曲はシングルの「CRIME OF LOVE」、「WILD AT NIGHT」、「Jealousyを眠らせて」ですが、これらがちょうどよく前半、中盤、後半に配置されていて、その間を埋めるアルバム曲も小気味のよいコンパクトなロックだったり、お遊び的な雰囲気のある曲(「CABATET IN HEAVEN」)だったりで、よい意味で方の力が抜けていて聴きやすいですし、またちゃんとロックしていて、イキイキしている氷室京介が聴けるのが良いですね。このアルバムも次の「Memories of Blue」の影にかくれて過小評価されている気がしますね。これから再評価されることを願います。

【氷室京介】12 "B"ORDERLESS(2010)

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12 "B"ORDERLESS

今回は、氷室京介12枚目のオリジナルアルバム、「"B"ORDERLESS」をご紹介します。
2020年時点では、これが最後のアルバムになります。2016年のライヴ活動引退の6年前の作品ですが、氷室京介総決算という印象の作品になっています。

まず前半4曲目までは泥臭いロックンロールが続きます。僕は氷室京介の楽曲でもロックンロールな曲が好きなので、一聴目にはおっ、と思うのですが、この4曲は、歌いかたや曲調があまりにも矢沢永吉に似すぎていて、氷室京介としては厳しいですね。もっと普通に歌ってくれたらまだ良かったのかもしれませんが、楽曲のインパクトも少し足りないので、残念なところです。

5曲目の「The Distance After Midnight」からはいつもの氷室京介の声に戻ります。この中盤の曲、「忘れてゆくには美しすぎる」との2曲が特に良いですね。これまでの氷室京介のロックナンバーをうまく進化させた曲だと思います。

中盤以降はさほどインパクトのない曲が続き、前作に続き、また、カバー曲が一曲入っています。クイーンのボーカルとしても有名なアダム・ランバートの曲ですね。よいカバーだと思いますが、逆に自作曲の「ACROSS THE TIME」が、初回版のみのボーナストラック扱いになっていて、普通逆だろうと思ってしまいますね。アルバムの構成を見た上での判断なのでしょうが。

終盤は、ビートルズの「Taxman」みたいな「Traumatic Erotics」を経て、ラストの「Bang The Beat」で盛り上げて終わります(ACROSS THE TIME とSafe and Soundは初回版のみのボーナストラック)。この曲こそ、本作を代表する曲ですね。もっとも氷室京介らしい曲でありつつ、「Claudia」みたいな懐かしい感じでもなく、氷室京介らしさを現代にアップデートできた素晴らしい曲だと思います。

全体をみて、「SHAKE THE FAKE」と同じくらいロックに振り切った作品に仕上がっています。しかし、冒頭4曲が弱いのが致命的ですね。あとスローテンポの曲が弱いのも気になります。

これまでアルバムごとに新しい試みを行ってきた氷室京介ですが、今作はそういった試みがない、珍しい作品となっています。つまり総決算ということなのでしょう。氷室京介として、ここがひとつの終着点だったのかな、と感じさせる作品ですね。

 

【氷室京介】11 IN THE MOOD(2006)

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11 IN THE MOOD(2006)

今回は、氷室京介11枚目のオリジナルアルバム、「IN THE MOOD」をご紹介します。
前置きなしで単刀直入に言えば、このアルバム、前作「FOLLOW THE WIND」の路線を引き継ぎつつ、当時アメリカで流行っていたエモ系のバンドサウンド、またリンキンパークのようなニューメタルのサウンドを取り入れ、前作より激しいサウンドになっています。ただ、当時で氷室京介、40代半ばだったと思いますが、その年齢でエモに接近するというのは中々珍しいことではあります。エモって基本的にティーンのためのロックですから。

前作は落ち着いた雰囲気のある、大人の歌謡ロックアルバムだったのですが、今回も歌謡ロックというところは変わらず、サウンドがエモやニューメタル仕様になったという印象です。

ただし、歌謡曲ロックとしてのメロディは、こちらの方が完成度が高いと思われます。キャッチ―な曲の多さでは、もしかしたら本作が一番かもしれませんね。それだけ覚えやすい曲ばかりです。シングルも3曲収録されていることもありますが、特に「WILD ROMANCE」は後期の氷室京介を代表する楽曲でしょう。イントロのギターリフが初期の氷室京介のロックサウンドを彷彿とさせますし、サビとAメロの間のブリッジ部分が技ありというか、ただの勢いだけのロックではないと証明しています。他に「Easy Love」(ただしラップは要らないと思うのですが。)も悪くないです。

一方、「Say Something」については、GLAYTAKURO作詞作曲で、演奏もGLAYなのですが、イントロのギターのリフがあまりにもGLAY的なので浮いていますね。この曲を聴くと、前作からの歌謡ロック路線は、GLAYからの影響が大きかったのではないか、と思わされてしまいます。

と、全体的に悪くはないのですが、ただ、アルバム全体を見て、これが前作FOLLOW THE WINDを超えたとは言いたくないところがあります。それは何故か。

このアルバム、何故かは分からないのですが、12曲収録のうち、2曲もカバー曲(というかほぼカラオケ)を収録しているんですね。Jimmy Eat WorldとAFIというアメリカのエモ系バンドの曲のカバーです。どちらのバンドも90年代前半に結成されたロックバンドで、本国で成功しているバンドではありますが、僕が気になるのは、わざわざ自作曲ではない曲を収録する必要性があったのか、またこれら2曲を、原曲ほぼそのままのアレンジで収録したのは何故か、ということです。

自分の作品にカバー曲を収録すること自体は昔から行われてきたことですし、別に変なことではありません。しかし、近年では珍しいことであるのは間違いありませんね。カバーがなくても10曲はあったのだし、わざわざ入れる必要があったのか。またカバーするにしても、昔からの名曲とかではなく、そのとき流行っていた曲というだけなので、その曲にする必然性もよくわからない。更に言えば、カバーするにしても、原曲そのままで収録しているので、ほとんどカラオケと同じになってしまっています。

このように、変なところでケチがついてしまったのですが、その点を除けば、確実に氷室京介の作品中、上位に入る作品だと思います。まあ、だからこそもったいないな、と思うのですが。

【氷室京介】10 FOLLOW THE WIND(2003)

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10 FOLLOW THE WIND(2003)

今回は、氷室京介10枚目のオリジナルアルバム、「FOLLW THE WIND」をご紹介します。
10枚目という一つの区切りになるアルバムですが、その内容を見るに、今までの総括的なアルバムとも言えそうです。氷室京介が探し続けていたもののひとつの答えがここに出たのではないか、という気がします。それはいったいなんなのか、これからお話ししていきましょう。

BOØWY時代から、氷室京介にとってロックとはまずアメリカ・イギリスのものであり、それを日本人である自分が、海外の音楽にも負けない、また自分自身納得できるロックを作ること、というのが、自分に課した課題だったのではないか、と仮定します。これは、少なくとも80年代以前にロックを自作自演していた人ならば、誰でも等しく持っていた問題意識だったのではないかと思います。

しかし、自身のアイデンティティー、リスナーが求める日本的な楽曲、レコーディングの技術的な課題などがあり、単に洋楽的な曲を作るだけでは済まない中、作家それぞれが試行錯誤の上、自分の納得できる折衷案を作り上げていった。それが80年代までに登場した日本の音楽家たちの一つの流れだったのだと考えています。

そして、本題にもどれば、氷室京介もそのうちの一人であり、その折衷案の一つの完成形が、このアルバムだったのではないかと思います。
では、その完成形とはいったいどのようなものだったのか。それは、洋楽的なサウンドをバックにした歌謡曲。言ってしまえば何の新しさもなさそうなことですが、それをかなり高度な次元で実現したのが本作でしょう。

「VIRUS」や「WEEKEND SHUFFLE」ではラップにも挑戦しているし、全然歌謡曲ではないのでは、と思われるかもしれませんが、歌自体は歌謡曲的ですし、ラップは今っぽさを演出するための手段に過ぎないと思います。このラップ自体、ほとんど韻を踏んでませんし、むしろラップ的な歌いかたと言った方が正確だと思いますが。

サウンド的には、90年代末から2000年代はじめまで流行っていたニューメタルからの影響が濃いですが、そういった今の音を取り入れつつ、日本的なメロディを歌うことに照れがなくなったのではないか。一種の開き直りともとれますが、アルバム全体を通して、一種のすがすがしさを感じるのは、それが理由なのだと思っています。

僕としては、こういう折衷案より、「SHAKE THE FAKE」や「Higher Self」で見せていた、日本語でも洋楽的に聴こえることを目指していた作品の方が魅力的に感じます。歌謡曲的なものは、ロック本来の持つ爆発力があまりないですから。「SHAKE THE FAKE」までに見せていた泥臭いロックンロールで固めた作品の方が音楽的なインパクトがあったと思いますし(実際、2000年代の世界的なロックンロール・リバイバル、ガレージロックブームに共鳴できたかも)、その方が唯一無二の個性をより発揮できたのではないかと思わずにはいられません。

しかし、良くできた作品であることには変わりありません。アルバム全体としてまとまっており、シングルの「Claudia」はいかにも氷室京介的なメロディの曲(ただサビのメロディを追うキーボードがちょっと90年代的過ぎますが)ですし、タイトル曲の「FOLLW THE WIND」は、歌謡曲として素晴らしいと思います。ここにも氷室京介の魅力が発揮されているのは間違いありません。

【氷室京介】09 beat haze odyssey(2000)

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09 beat haze odyssey

今回は、氷室京介8枚目のオリジナルアルバム、beat haze odysseyをご紹介します。
このアルバム、収録曲が7曲と少なく、ミニアルバムとみなされることもあるようですが、7曲で合計30分以上のボリュームがありますし、それこそレコードの時代だと30分程度の作品など普通なので、ここでは8枚目のオリジナルアルバムとして扱いたいと思います。

ただ、収録時間だけでオリジナルアルバムだと認定するわけではありません。7曲でもアルバムとしての聴き応えがあると思うからです。

今までご紹介してきたアルバムの中で、2枚目の「NEO FASCIO」を氷室京介最大の異色作とご紹介しましたが、今作も氷室京介の全カタログの中では異色というべき作品だと思います。
何が異色なのか。それは、このアルバムが非常に「ポップで明るい作品」だからです。

わかりやすいという意味では、6枚目の「MISSING PIECE」もありますが、あの作品は歌謡曲(J-POP)的なわかりやすさを追求した作品だったところ、本作はイギリスやアメリカのポップソングを氷室京介が作って歌う、というコンセプトが感じられます。シングルの「Girls Be Glamorous」なんてロックなサウンドではありますが、リズムやメロディはアメリカ的なポップフィーリングがありますね。6曲目の「Julia」なんて、ロネッツの「BE MY BABY」みたいなサウンドで、イントロを聞いただけだと、山下達郎かと思うこと間違いなしです。

また、洋楽的なサウンドになっていると言いましたが、と言っても完全な洋楽ではなく、サビの部分など、日本的なメロディを残しており、日本のリスナーに聞きやすい作品になっていますね。

ただ、どの曲も悪くないのですが、これという決定的な曲には欠けるところはあります。また、曲自体は良くても、これまでの氷室京介と比べて、かなりポップな曲ばかりなので、氷室京介が誰かに提供した曲のセルフカバー集みたいに聞こえる瞬間もあります。といっても本当にセルフカバーの曲は、最後の「ONE」だけですけども。この曲はちょっと歌謡曲というか演歌みたいに聞こえてしまうところがあるので、ちょっと残念でしたが。

本作は、僕の考える氷室京介の中期最後の作品ですね。「MISSING PIECE」、「MELLOW」ときて本作までの3作を中期としていますが、この時期はポップで分かりやすい作品を作ろうという意思が感じられます。そして次作からを後期としていますが、中期と比べて俄然ハードな世界観を追求していくことになります。そこは次回にお話ししましょう。

【氷室京介】08 MELLOW(2000)

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08 MELLOW(2000)

今回は、氷室京介8枚目のオリジナルアルバム、MELLOWをご紹介します。
MELLOW(メロウ)とは、その名のとおりメロディアスかつゆったりしたというイメージの言葉ですが、このアルバムのコンセプトのようなものになっています。ただ、タイトルがメロウでジャケットが真っ白だと、いかにもバラード集のように見えてしまいますが、それはミスリードでは、という気がします。というのも、テンポこそ遅いものの、半数の曲はしっかりした(という言い方も変ですが)ロックな曲ですから。この時期、「ダイヤモンド・ダスト」に「永遠」と、立て続けにバラードのシングルを出していたこともあり、必要以上にバラードの印象を与えたことは、本作にとって実は不幸なことだったのでは、と思ってしまいますね。

さて中身ですが、一曲目はシングル「SLEEPLESS NIGHT」から始まります。この曲からしてバラードではないのですが、これは前々作の「MISSING PIECE」に収録の「STAY」や「SQUALL」などと同じ路線の、歌謡ロックというべきものですね。コブシの効いたメロディや曲構成が歌謡曲的(つまりJ-POP)だと感じます。ただ「STAY」や「SQUALL」よりも進化していて、氷室京介の歌謡ロック路線のひとつの完成形だと思います。

また、歌謡ロックについては以前にも書きましたが、それが良いとか悪いとかではまったくなく、この曲、僕は好きな曲ですし良い曲だと思います。ですが、日本特有のロックであるということは認識しておいた方が良いと思います。

そしてこの曲、アルバム全体から見て明らかに浮いている曲なんですが、そういうシングル曲を一曲目に持ってくるのは、4枚目のアルバム「Memories of Blue」と同じ構成ですね。キャッチーなシングルでリスナーを安心させて、二曲目から本当のアルバムがスタートするという感じ。この始まり方も悪くはないのですが、ただ、本作は「永遠」から始まるのもよかったのでは、という気もしますけども。

前作I・DE・Aのご紹介では音が古くさいとさんざん文句を言ってしまいましたが、このアルバムはそんなことはないですね。むしろ、うまく同時代の洋楽のサウンド(特にUKギターロック)を習得できているように思います。「Silent Blue」はいかにもU2的なサウンドに仕上げた上で、氷室京介の歌の個性もしっかり表現できていますね。

曲も粒揃いだと思います。バラードが多いのはそういうコンセプトだから仕方ないとしても、ひとくちにバラードと言っても、本作のそれは、曲ごとにキャラが立っており、聴いていて飽きさせません。ピアノバラードだったりロックバラードだったり、若干アップテンポだったりで、工夫されているからでしょう。

しかし、実はそういうバラード曲よりも、ラスト2曲のロックナンバーの方が魅力的に感じますね。「JIVE!」は氷室京介のロックナンバーの中でもかなりグルーヴィな曲で、意外と今までなかったパターンの曲です。最後の「bringing da noise」は氷室京介初ラップの曲でもありますが、この曲はなんと言ってもギターの音色がエッジが効いていてよいですね。金属質で、しかし粘っこいリフを弾いていて、「JIVE!」と同じくグルーヴィな曲です。この2曲で終わるから、アルバム全体もまったりした感じがなく、何度も聴きたくなるようになっています。結局、バラードは多いけれども、良いロックアルバムということですね。